時をかけるクマ子-プロローグ-

プロローグ―マタロウからの依頼―


マゼラを打ち倒し、アトランティスでの大冒険も終えて平和が訪れたY学園。


平和が訪れたとは言っても、超強力な個性の学生や、お騒がせな怨霊がワイワイ元気に過ごしているため世間一般で言うところの平和が訪れたとは言い難いが…、それでも地球の運命を賭けたエイリアンとの大スペクタクルバトルや、超古代に行って特撮よろしくのヒーローVS大怪獣バトルをする必要がなくなったということは、この学園にとっては平和と言えるのだ。


だが平和になると、暇になってしまう者もいる。


事件が起こらず暇になってしまった記者や、騒動に便乗して騒いでいたアウトロー、脅威に対しての防衛策を練っていた者など事情はそれぞれである。


今そのうちの一人、暇を持て余した美少女研究者が彼女の所属する研究所・Y研の研究室で大きなあくびをしていた。


――雲池クマ子

学園長に選抜され、平和を脅かす者に対抗する力を研究していたプロジェクトグループのリーダーであり、YSPウォッチ、エイリアンウォッチ、URウォッチなど、強力な変身ヒーローを世に生み出すためのウォッチを開発した超天才科学者でもある。


平和になったことで学園長からのウォッチ開発の依頼もなくなり、かといって彼女が片想いしている生徒会長は未だに戦いの事後処理で忙しい為相手にしてもらえず、少し張り合いのない生活を送っていた。

そんな彼女に久々に依頼が来たのだ。


依頼主は

――玉田マタロウ


元は何の力も持たなかった普通の優しい人間の男の子。

ヒーローになりたい!と憧れる彼にクマ子は少しでも喜んでもらえるようへっぽこ機能の変身ウォッチを作って渡していたものだが…、今となってはその強い意志の力で、強力な戦士ティーダス、そして最凶の極悪妖怪である空亡の力を使いこなし、とてつもなく強いヒーローになったことを喜ばしく思っていた。

その彼が。


「クウカせんぱーーい!!!」

と泣きついてきたのである。実に久しぶりに。


「ど…どうしたのマタロウくん!」

「お……お願いです!僕のウォッチを強化して欲しいんです!」


強化……?これといった脅威はもう存在しないのに……?といぶかしむクマ子だったが、その次の彼の発言を聞いて納得がいった。


「空亡への封印を強化して欲しいんです!」


――先日、平和なここ数ヶ月では珍しく、この学園のグラウンドの方で事件があったらしい。

驚いたことにマタロウの中から封印しているはずの最恐最悪の怨念・空亡が出てきて、寺刃ジンペイをはじめとする変身ヒーローたちが討伐に向かった。幸い大きな被害を出す前にマタロウが再び取り込んだらしいのだが……。


「ボクが平和ボケしているせいなのか……空亡が平和な現状に猛烈に怒ってパワーを増しているからなのか……気を抜くと度々、やつが出てきそうになるんです……」


クマ子はマタロウを見た。

まだあどけない中学一年の小さな少年である。声変わりもしていない。

そんな少年がこの平和な状況でひと時も気を抜くことができないなど、どんなに強い心をもっていても不可能だろう。

心なしか、目の下にうっすらとクマが浮いている。おちおち寝てもいられないということか。


かわいそうに……率直にそう思った。

出てきては話も通じず世界を破滅させにかかってくるなんて、何てはた迷惑な怨念なんだろう……ある意味マゼラよりもタチが悪いかもしれない。

マタロウはそんな迷惑な怨念の封じ係になってくれているのだ。


「それは酷いわね……任せてマタロウくん!今すぐ開発にとりかかるから!」

「本当ですか?うわあん!やっぱり優しいなあ…クウカ先輩」

「ボク、もうどうしたらいいかと途方に暮れてたんです……クウカ先輩……困った時に何度も力になってくださって本当にありがとうございます。」

そう言って涙目であどけなく微笑む姿は、世界を守る強いヒーローというよりは、年相応の素朴な少年といった感じだ。

その素直で優しい性格から、ジンペイをはじめ、マタロウが友達みんなに愛される訳がなんとなくわかる。


「ふふ、いいのよ。私、今Y研での活動も特になくて実は結構暇なんだ。」

「えっ?そうなんですか……?もしかして悪いエイリアンがもういなくなったからですか?」

「そうなの。みんなが頑張ってやっつけてくれたから。」


自分達Y研の作ったウォッチはきっかけにすぎない。

命を賭けて闘ってくれたみんなのおかげで今の平和があるのだ。


「でも開発には少し時間がかかるから、これを渡しとく。」

そういってマタロウの目の前にたくさんの小瓶が差し出された。


「クマ子特製、スーパーゲンキドリンクよ!これを飲めば3日は寝なくてもいけるわ。開発終了までこれで何とか凌いで。」

「マタロウくん……疲れてきってて思いっきり死相が出てるから……」


「ええっ…!?……ボク死相が出てるんですか…!?…うう……がんばりますぅ〜……」


そう言ってションボリする少年の小さな肩には世界の命運が掛かっているのだ。がんばってほしい。

それにしても……


「とんでもなくはた迷惑な怨念と関わっちゃったわね……マタロウくん。」

「まったくです……とほほ……。」


その時はまだ考えたこともなかった。

この迷惑極まりない怨念がどんな時代に存在してどんな過去を持つ怨念であるかなんて…

Novel

挿絵付きの小説ページです。 小説は初めてなので文章が下手くそで恐縮ですが読んでいただけると嬉しいです。

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