【時かけクマ子】第1章① 大切な人

冬の終わり。まだ寒さを感じる朝の静かな空気の中、クマ子はいつものように研究内容を思案しながら学校に向かってのんびりと歩いている。


先日マタロウから来た依頼については封印を強化するウォッチを渡すことができた。


「うれしー!ボクやっとお布団でゆっくり寝られるんだぁー!」と涙目で踊りながら喜んでいた姿を思い出すと、マタロウのかわいらしさに胸がほっこりする。


しかし、封印対象の極悪妖怪・空亡の特殊な妖気に関して研究をしている際、新しい発見がいくつかあった。

(今日はその妖気のデータを新しいウォッチに活かせないかもう少し研究を進めてみよう)


研究テーマが決まると少しワクワクする。根っからの科学者気質なのである。

そうやって研究内容に思案をめぐらせるクマ子の後ろから


「おはよう」


そっとクマ子の肩を叩いて、彼がぶっきらぼうな挨拶をした。


――霧隠ラント

Y学園の冷静沈着頭脳明晰な頼れる生徒会長であり、小学生からのクマ子の片想い人でもある。


そんな彼の不意打ちに驚いて赤面するクマ子。


「お、おはようラントくん……」

動揺して言葉を返すのもしどろもどろになってしまう。


しかしこの動揺は、クマ子にとっては幸せこの上ない動揺であった。


(ラントくんがウチの肩を叩いて挨拶してくれるなんて……と…尊い……尊すぎるよ……)


客観的に見れば「霧隠ラントが幼馴染の肩を叩いて挨拶をしただけ」


それが何故クマ子にとってはそんなに尊いことなのか。

それは彼女が2年間もの間、彼に冷たくスルーされ続けた……という過去の出来事に起因する。


小学生のころは、友達として普通に挨拶をし合う仲だった。

その頃のラントは、ドジなクマ子を放っておけなかったのか何かとお世話を焼いてくれていた、ぶっきらぼうながらも優しい友達だった。

もしかしたら、クマ子を亡くなった妹さんと重ねて見てくれていたのかもしれない。

クマ子にとってはそんな日々が愛しく、ラントの隣にいられることが幸せで仕方がなかった。


それが宇宙人と戦うためにY学園へ入学することにしたラントの力になりたいと強引についていってからは、まるで正反対に変わってしまった。

ついてくるなと警告したのにもかかわらず、強引についていったのが彼の逆鱗に触れてしまったのか、徹底的に存在を無視されるようになったのだ。


まるでクマ子の存在が視界に入っていないかのようにスルーし続けるその姿に、クマ子もそのうちすっかり挨拶を返してもらえることを……目を合わせてもらえることを諦めてしまっていた。

一度排除を決めた者には徹底的に突き放す……そんな冷酷な一面があるのも、霧隠ラントだった。


(復讐を決意して戦うラントくんにとって、ウチはとにかく鬱陶しいんだろうな……。だけどたとえ嫌われていたとしても、陰ながら少しでも彼の力になりたい…)


そんな思いでYSPへの研究が彼のためになると信じ、寂しさをひたすら研究にぶつけた。


その彼が……

今、自分の肩を叩いて挨拶をしてくれたのだ。


クマ子の脳内では喜びの記者会見が開かれていた。


脳内記者「今の気持ちは?」

(尊いです!すっごく尊いです!うわあ〜……嬉しいよ〜!)

(今日は日記に原稿用紙10枚分は喜びの文章を書ける!なんて……///)


そんな妄想をしながらにやけ顔で小躍りするクマ子を横目に


(こいつは本当にわかりやすいな……)

とラントは思う。


昔から、クマ子の考えていることは、その表情の豊かさや彼女の発する空気から、手に取るようにわかるのだ。

ただ挨拶をしただけでこんなに嬉しそうにはしゃいでいるとは……と少し呆れる。

それでも、クマ子の嬉しそうな笑顔を見ていると、自分の胸に温かな気持ちの灯が灯るのも確かだった。


クマ子は気づいていない。

表に出さないようにはしているが、この少年・霧隠ラントもまた、昔から彼女に対してクマ子と同等とも言える大きな感情を抱いているのだ。


だが彼女に対しては学園に平和が訪れた今でも、相変わらずぶっきらぼうな態度しか取れない彼であった。


「少し……久しぶりだな。」

「う、うん……。生徒会忙しそうだったね。ちょっと落ち着いた?」

「そうだな。先の戦いで何度も学園内が破壊されたからな…後処理が大変だったがようやく落ち着いてきたところだ。」


校舎ごと宇宙へ行ったり、メテオまで降ってくるとんでもない学校なのだ。

その生徒会長といえばラントのようなどんなに有能な男といえども激務になる。


(それにしても…。)

クマ子はラントをチラ見した。


(少し見ない間にまた背が伸びてカッコ良くなったなあ…)

どこまでカッコ良くなれば気が済むのだろう。ぜひともこれ以上置いていかないでもらいたい。


側から見れば、ファンクラブが作られるくらい彼女も十分に美少女なのだが、最近までずんぐりぽっちゃり体型であったため、容姿に関してはそこまで自信がないのだ。

クマ子がぽーっと見惚れていると、現実に引き戻される質問が来た。


「ところで、Y研では今何をしているんだ?」

「う……。特に動いてはいないけど、新型ウォッチの研究をぼちぼちって感じかな……」


「……ウォッチ?」

ラントが少し訝しむ。


「玉田に渡した封印強化ウォッチのことか?」

「えっ!?知ってるの?」

「クマ子に解決してもらったと大声で喜んでいたのを目撃したからな」

「あはは……マタロウくんらしい。でも今研究しているのは新しいウォッチなんだ。強力な怨念の力を活かせばもしかしたら今までよりも強いウォッチを作れるんじゃないかと思って。」


「強力な怨念……だと……?そんなものを取り扱って……お前に…その…危険はないのか……?」


少し表情が翳るラントに、自分を心配してくれているのかなと少しだけ嬉しくなるクマ子。

「大丈夫!データで扱っているだけだからね」

「………………。……気をつけろよ。」


若き超天才科学者といえども、ラントにとっては少々抜けたところがある幼馴染である。

怨念などといった強大な力を取り扱って何かあったら……と思うと心配になってくる。

それに……

(より強い新型ウォッチか……。)

クマ子には強大な敵が襲ってくるたびにより強いウォッチを作ってもらっていたものだが……

(戦いは終わった……。もうそろそろ……クマ子により強い力を求めさせるのも潮時ではないのか。

学園長に掛け合ってみるか……。)


一方はたかが挨拶に喜びで浮き足立ち、

一方は相手への勝手な心配で足取りが重くなる。

対称的な思いを胸に校舎へ向かう二人だった。



(蛇足)

ラント〜〜〜〜〜〜!!!!!👊👊👊👊👊👊

てんめ〜〜〜〜!!!!wwwwちくしょ〜〜〜!wwww

言葉が足りなさすぎるんじゃ〜〜〜〜!痛い目に遭え〜〜〜っwwww

って思いながら書いてたら、挨拶しただけでこんな文字数(2000字オーバー)になった…むう…配分が難しい

Novel

挿絵付きの小説ページです。 小説は初めてなので文章が下手くそで恐縮ですが読んでいただけると嬉しいです。

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