刺客――その言葉に反応して、ツノを生やした者たちが一気にこっちを警戒した。
それと同時に、数人が一人の女性を守るように取り囲む。先ほど姫……と呼ばれていた女性だろうか。
「し、刺客だなんて……違います!わ……わたし……」
取り囲む殺気立った気配に、クマ子の背筋が凍る。
屈強な数人の騎士たちがクマ子に走り寄り、こちらを威嚇しながら刃を向ける。
「見たこともない奇妙な姿をしている……姫を狙う新手の魔術師か何かか?」
「気をつけろ!先ほど現れた時のあの光!何か妖術を使うようだぞ!」
だんだんと明白に命の危機を感じる。
刺客と間違えられて殺されそうになっているという現実をハッキリと理解した。
涙目になって弁明する。
「よ、妖術だなんて……う、ウチは普通の人間です……!」
恐怖のあまり声が出てこない。
「姫を狙う刺客め!排除する!」
と取り囲んでいた中の一人の戦士がクマ子に剣を振り下ろそうとしたその時、
「――待て!」
声高に叫ぶその声と共に一人の青年がクマ子の前に立つ。
「貴様……!なぜ止める!」
と剣を振り下ろそうとした戦士に問われ青年が答える。
「話を聞いていない以上、まだ刺客と決まったわけではないだろう。」
「しかも……見たところ人間の……まだ少女のようだ……」
「ハッ……幼い見た目に同情したのか。お優しいことで。それでも王と姫を守る近衛騎士か!」
「情けないぞ!選ばれし近衛騎士としての矜持はないのか!」
「いきなり玉座に現れた者が刺客ではないわけがなかろう!」
自分を庇おうとしてくれた青年に非難の声が次々と上がる。
クマ子は青年を見た。こちらに背を向けているので顔は見えないが、クマ子を取り囲んでいる屈強な者たちよりも、一回り体格が細く、若そうな青年である。
「…………。」
青年はうなだれながらもクマ子の前からどこうとはしない。
「そこをどかぬなら貴様ごと斬るぞ!」
「くっ!」青年は防御の姿勢をとるも、依然として退こうとはしない。
自分を庇ったせいでこの青年まで斬られようとしている。
この青年にとって庇ってもなんの得もない、見ず知らずの少女のために。
クマ子は見ていられなくなった。
震えながらも蚊の鳴くような声を振り絞って
「あの……もういいです……あなたまで斬られてしまう……」
と、青年に退くように言ってみる。
その時、青年はクマ子の言葉に驚いたのか、自分の方に振り返った。
青年の瞳とクマ子の瞳が交差する。
歳の頃は人間で言えば自分より少し年上の17歳〜20歳ごろだろうか。
他の屈強な戦士たちとは少し違い、端正でやさしげな顔つきをしているが、額には他の者たちと同じようにツノがある。
そして青年の青いその目には、困惑の中に、優しさと人の良さが見え隠れした。
なぜだろう。
初めて会うのに……その瞳を見ていると……ほんの一瞬、どこかで出会ったことのあるような……そんな気がしたのは。
青年は驚きの表情でクマ子を見た後、少し微笑んで、
「困るな……そんなことを言われると、余計に退けないではないか。」
そう言って前に向き直った。
その時だ。
「待たぬか」
玉座の近くから威厳のある女性の声がした。
先程の皆が守ろうとしている姫のようだった。
姫は、皆の前に出てこう言う。
「先ほどから様子を見ていたが、どうもわらわを狙う刺客には見えないな」
「先程出現した大きな光には驚いたが、妖気も何も感じない、普通の人間の小娘のようだ。」
「人間など脆弱な存在がいくら攻撃したとてわらわは殺せぬわ。そんな者を刺客に放つ愚か者もおるまい。」
姫がそういうと、護衛の騎士たちも少し警戒を解いたのか、先程までの死と隣り合わせだった緊張した雰囲気がいくぶん和らいでいく。
そして姫はクマ子の前に立つ青年の前まで悠然とやってきた。
「お前も同じ意見か、空天」
空天と呼ばれた青年は跪いて頭を下げながら答える。
「はっ!恐れ多くも……私にはこの娘がどうにも刺客には見えなかったもので……。」
「本来なら御身を第一にお守りするはずが……申し訳ございません。」
「ふむ……」
姫は怯えたまま地べたにへたれこんでいるクマ子を見る。
そうしてクマ子に尋ねた。
「人間の娘よ。先程の大きな妖気の光はなんだ?そこから急に現れたのはどういった事情なのだ。」
クマ子は姫を見た。華奢でとても美しい女性だ。
声にこそ威厳があるが、表情に険しいところはない。
むしろ、その表情からは怯えきっているクマ子を気遣ってくれているような気配がする。
クマ子はたどたどしい言葉で答えた。
「わたし、研究者で……どうやら実験が失敗して……ここに来てしまったようです……」
*(蛇足)*
うう、やっと空天くん出せた〜〜!!
今作の空天くんは良い子の予定、、、です(´-ω-`)
(自創作、空天くんに悪いことさせがちなので、、w)
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