「Y研は我が校が誇る最高の機関だ」
「君たちの活躍がなければ人類は宇宙人に太刀打ちできなかっただろう……最大限の感謝を述べさせていただきたい!」
クマ子たちY研のメンバーは現在学園長室にいた。
そしてたいへん名誉なことに学園長直々に研究の功労を称えてもらっているのだ。
元々、Y研は秘密裏に学園長からエイリアンに対抗するに対する手段としてのYSP研究の使命を受けた機関であったため、所属としては学園長の管轄になる。
クマ子はY研メンバーを見渡した。皆、実に嬉しそうである。それもそうだ。自分たちの研究が人類防衛の要になったと聞けば嬉しいに決まっている。
思えば、困難もたくさんあった。研究がうまく進まなかったりすることももちろんあったし、風紀委員に目をつけられ拘束されたり解体されたりしたこともあった。
みんなその度に立ち上がってくれた。リーダーの自分を励ましてくれた。クマ子にとっては大切な仲間たちだ。
しかしながら、次の発言でチームの表情が和やかムードから驚きに変わった。
「君たちのおかげで、過去の妖魔界すら滅した最強の脅威から地球を防衛することができた。おそらくもうこれ以上の脅威が現れることはないはずだ。……そこで」
「君たちY研には私の勅命で動いてもらっていたが、今後は君たちの意思で自由に研究していってもらいたいと思っている。」
えっ、とざわつく部員を横目に見て、Y研でクマ子の頼れる右腕的存在の博野が、彼のメガネを上げながら怪訝な表情で切り出す。
「それは……ぼくたちにYSPの研究をやめて他の研究にテーマを移すように、ということですか?」
「いや、そうではない。君たちが本当にこれからもYSPの研究をしたいなら続けてもらっても構わない。本当にやりたい研究をしてもらいたいということだ。」
「本来君たちは他の生徒と同じ、自由な学生であるべきなんだ。今までは私の命で強引にYSPを研究してもらっていたが、これからは研究テーマを好きに決めて欲しい。研究のバックアップは今までと同じようにさせてもらうつもりだ。」
「ぜひ、自分たちのやりたいことをじっくりと考えてみてくれ。」
確かに学園長は本来学生の自由を尊ぶ人だ。
Y学園の他の学生たちは、そんな学園長の思想が反映されてか、「熟女研究会」や「サスペンダーを奏でる部」などに代表されるように、それが将来なんの役に立つのだということでも、じつに自由に生き生きと追求したり活動したりしている。
最高の頭脳を選抜して集められたY研メンバーにも、本来の自由な学生に戻って欲しいということだろう。
学園長の意向を理解し、Y研リーダーのクマ子が代表者として答える。
「わかりました。Y研の今後のことをこれからみんなでよく考えてみます。」
「うむ、色々と前向きになって考えてくれ!まあ、つまるところ君たちには苦労をかけた分楽しい学園ライフを送って欲しいのだよ。」
はっはっはっ!と、そう満面の笑顔で話す学園長に、
(きっとこの学園の生徒が個性的で元気いっぱいなのは、生徒第一に考えてくれるこの人が学園長だからなのだろう…たまにムフフ本隠してたりして困ったところもあるけれど……)
この人が学園長で良かったと思いながら、クマ子は学園長室を後にした。
*
「――学園長の気持ちはありがたいんだけど、2年間研究していたことから急に別のことも考えろと言われてもなあ……」
科学実験棟に戻ったクマ子に博野くんがポツリという。
「ぼくはヒーローが好きだから、変身ウォッチを研究するの、楽しかったんですけどね。」
博野くんらしい。共に研究をしていたときの彼はとても生き生きしていたので、本当に好きで研究していたのがわかる。
「クマ子さんはどうですか?他に研究したいテーマがあったりするんですか?」
「……ウチ?……うーん。Y研にきてからは必死で、実はあんまり考えたことがないなあ。」
博野くんの質問を受けて、確かにウチは……どうなのかな……。と考える。
小学生の頃は、宇宙や宇宙人を知りたくて研究していた宇宙マニアだったけど。
彼……ラントくんに出会ってからは、ほぼ彼の助けになりたいという気持ちで研究していたように思う。
だから急に自分のやりたい研究といわれても、考えがぼんやりしてしまう。
「ふふ、でも学園長の申し出はありがたいと思う。私たち、自分のやりたいことをゆっくり考えていこうよ。」
「そうですね!ぼくはマタロウくんにでも相談してみようかな。」
「あはは、ヒーロー同好の友達だもんね。」
私は……ラントくんに相談でもしてみようかな……なんて。
この間久しぶりに一緒に登校してから、よく一緒に登下校するようになった。
実は……今日もFST(放課後の自由活動時間)が終わったら一緒に帰る約束をしている。
(仲の良い友達だった小学生の頃の関係に戻れてきている気がする……)
そんなわけで、ここのところクマ子は地に足がついていない浮ついた状態なのだった。
(今日は早く終わったし……ラントくんのところに行ってみようかな……)
(ちょっと待って……仕事終わりを待つなんて何だか……彼女みたい……!?
出てきたラントくんに「フッ……待たせたな……」とか言われちゃったら……?
ま……待って……そんなのウチには無理すぎる……♡♡♡)
などといつものようにピンクな脳内妄想に浮かれながら、浮ついた足取りでY研の部室を後にするクマ子であった。
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